科学的目標
EUSOの目標は以下の3つです。
- 極限エネルギー宇宙線の起源と伝播の解明
- 極限エネルギーニュートリノ天文学の創始
- 大気発光現象の網羅的研究
それぞれについて以下に簡単に述べましょう。
極限エネルギー宇宙線の起源と伝播の謎を解く
極限エネルギー宇宙線の実験結果を説明するためにさまざまなモデルが提唱されてきました。それが陽子などの通常の粒子ならば、その源である天体までの距離はGZK地平線である50Mpc程度以下に限られます。ガンマ線バーストや電波銀河のホットスポットなどの非常に活動的な領域で1020eVまでの加速される可能性があります。これらはボトムアップシナリオと呼ばれています。しかし残念なことに、一般にこれらまでの距離は非常に遠く、50Mpc以内には一つも見つかっていません。一方で、素粒子論・宇宙論の観点から、さらに高いエネルギーの現象からの二次生成物として極限エネルギー宇宙線を生成するさまざまなモデルが提唱されています。例えば宇宙初期にできた位相欠陥(コズミックストリングなど)
が現在になって崩壊して生成されるというモデル、銀河系ハローの重力場に捕らわれた長寿命の超重粒子の崩壊によるモデルなどです。これらはトップダウンモデルと呼ばれ、極限エネルギーのガンマ線もしくはニュートリノの検出がその有力な検証方法です。その他に、極限エネルギー宇宙線が通常の粒子ではなく超対称性粒子である可能性なども提唱されています。
もし極限エネルギーで特殊相対論が破れていればGZK地平線を超えた場所からでも地球に到達可能であることがホットな話題として議論されています。もっとも、30年以上も前の1972年には、すでに、甲南大学の佐藤文隆氏が「絶対系からの速度差のローレンツ因子がg 〜1012というような大きな慣性系にまで相対性原理が成立するのか」という物理学の根幹に係わる疑問を呈していました。このように極限エネルギー宇宙線の起源についてさまざまな議論がなされていますが、未だ結論が出ていません。これは、主として観測事例の少なさが原因です。EUSOミッションは、宇宙から観測することにより、飛躍的
(AGASAの300倍) な有効面積を実現します。その3年間のミッション中、約2,000個の極限エネルギー宇宙線を観測します。これらの宇宙線の到来方向分布やエネルギー分布を飛躍的に高い統計精度で確認することにより、永年の謎である極限エネルギー宇宙線の起源を解き明かします.また、宇宙線が陽子などのハドロンか、ガンマ線か、ニュートリノかなど、それらの種類の同定も重要です。それが陽子や重い原子核なら極めて近くに未知の天体が存在し、AGASAの実験結果から推定すれば、数十個の点源が発見されるでしょう。新たにハドロン天文学が開かれると同時に、点源のまわりの分布から銀河系磁場を使った宇宙線の分光観測の可能性が期待されます。これにより、まだ未知の銀河系外磁場の値にも強い制限を得ることができるでしょう。もし近くに起源が存在しなければ、背景放射光子との衝突によるエネルギー損失を受けないことを意味し、相対論のほころびを示唆するのかもしれません。
ガンマ線やニュートリノだった場合には、極限エネルギー宇宙線はトップダウン起源の可能性が高まり、宇宙線のエネルギーは1021eVをはるかに超えて伸びているかも知れません。更なる実験計画へと飛躍的発展が期待されます。
ニュートリノ天文学
活動銀河核(AGN), 宇宙初期の位相欠陥(TD)の崩壊、超GZK宇宙線と背景放射光子の衝突(GZK)、宇宙初期に生成されたダークマター(SMrelic)の崩壊、宇宙背景ニュートリノとのZ中間子共鳴過程(ZBURST)などにより超高エネルギーニュートリノが生成されると予想されています(右図)。しかしニュートリノの大気中での衝突は稀であるため、これまでの実験は全て上限値を与えてきただけでした。一方、EUSOは1013トンもの大気を検出器として用いるので、超高エネルギーニュートリノの検出が可能です。地表に殆んど平行で、数100kmもの大気をつき抜けて観測される空気シャワーはニュートリノによるものに限られるので、陽子や他の原子核、あるいは光子によるそれと明確に区別することができます。それぞれのモデル計算に用いられた仮定により、AGN(A),AGN(B)などとフラックスは大きく変わりますが、赤い太線で示したようにEUSOは様々なニュートリノ起源において予想されるフラックスを検出できます。
超高エネルギーではυe、υμに対して地球は不透明になります。一方、υτはτとυτを交互に生成しながら地球を突き抜けられるので上向き空気シャワーを作ることができます。この、上向きシャワーにおいては、シャワー粒子の進行方向に集中したチェレンコフ光ビームを直接EUSOで観測できれば1016eVぐらいまで検出限界エネルギーが下がります。
さまざまなモデルから予測される宇宙ニュートリノフラックス
赤線は、EUSO視野内でエネルギー一桁あたり1年に1イベント起こったときの1フレーバーあたりの検出感度を赤太線で示しています。
大気発光現象
EUSOは、地球大気の紫外線領域での夜間大気光・放電発光・流星などによる発光現象を全て網羅的に調べることができます。宇宙線空気シャワーによる蛍光は、大気の深さによらず100μs程度の極めて短い現象です。これに比べて、上記の大気紫外線発光現象は、300μsから数時間以上の時間尺度で変動します。この時間尺度の違いにより、両者を見分けられます。特に地表から観測が困難な超高層大気発光現象の網羅的な観測データはまだありません。EUSOは大変貴重なデータを提供します。
(1) 夜光
夜間大気光は、超高層大気中での構成分子・原子間の化学反応にともなう励起によって発光します。地表観測では、波長領域300-400nmにおける発光については、観測データが不足しています。主としてエアロゾルの吸収により、強い減衰を受けるため観測が難しいからです。発光の強さは、季節・時刻・経度緯度・太陽活動の度合・地磁気活動その他様々な因子に依存するばかりではありません。時間変動する小規模構造があり、EUSOのようなエアロゾル吸収の影響を受けない宇宙からの長期観測が有効です。右図に示すような小規模大気重力波は成層大気中において下層大気の運動量を中間圏界面高度に鉛直輸送・伝達する役割を持ちます。EUSOは広い観測視野をもつため、地上観測では困難であった広い領域での空間分布を一度に観測することができます。これにより、中層大気の力学・熱・組成構造の解明に不可欠な、貴重な大量データを取得することが可能となります。
地上から観測したOH大気光
左は1995年12月23日1652UTの、右は1701UTの画像を示しています。左図中央の構造が右図では小さな構造に変化しています。
(2) 雷放電
雷放電に伴って発生する成層圏・中間圏・下部熱圏での発光現象が1990年代に相次いで発見されました。下図に示すように、これらの発光現象のうち、雲頂から高度40kmの成層圏で斜め上方に発光が進展する現象をブルージェット、高度40-90kmの中間圏で複雑なストリーマー構造をもった発光現象をスプライト、高度約90kmの下部熱圏で直径数百キロメートルにわたってリング状に発光が進展する現象をエルブスとよんでいます。これまでに行われてきた数々の地上光学観測によって、これらの発光現象の時間スケールは数ミリ秒から数百ミリ秒であることが明らかになっています。近年では、これらの現象が大気の微量成分、特にオゾン組成に大きく寄与することが指摘されています。しかし地上からの光学観測では、青色発光を定量的に測定できないため発光を引き起こす電子のエネルギー推定が困難である点や、気象・地理的な制約から全球での発生頻度・分布を特定できない点など、未解明な問題が多く残されています。EUSOは、これらの現象の波長領域300-400nmにおける発光強度を、約2.5μ秒というこれまでにない高い時間分解能で観測することが可能です。また真上からの観測が可能であることも大きな特色です。さらに、EUSOは北緯51°南緯51°、全経度を観測することができます。これはちょうど雷の多発地帯にあたるため、定量的な全球発生頻度分布を特定することが可能となります。このように、EUSOによるデータは、スプライト/エルブス/ブルージェットと雷放電とを結びつける機構を明らかにし、気象物理・大気電気物理・超高層物理など多くの分野に全く新しい知見を与えます。同時に、EUSOの観測によって初めて、これらの放電現象による大気の微量成分の全球的な変化を定量的に推定することが可能となり、成層圏・中間圏オゾン化学反応過程の理解と地球環境研究にとって大きなブレイクスルーを与えます。

雷放電に伴う成層圏・中間圏・下部熱圏でのトランジェントな発光現象
(3) 流星
彗星、小惑星、星間空間などを起源とした宇宙塵が上層大気に突入して、高度100km程度で発光する現象が流星です。特に彗星のダストトレイルと地球軌道が毎年同じ位置で交差して発生する流星群は、母天体を構成する最小単位となっている微粒子の物性、組成、構造を知る上で、惑星科学にとって重要な観測対象です。
近年大出現したしし座流星群によって数々の新発見がなされました。特に可視・紫外領域で従来より2倍近く高い高度から発光する流星の発光素過程の理解が重要視されています。大気吸収のない宇宙空間から地上を見下ろしながら、地上から見上げる観測よりもはるかに広い大気面積をカバーできるEUSOからの流星観測は、そうした流星科学の新しい謎の解明に大いに役立つと期待されています。
ハイビジョンカメラによる2001年のしし座流星群と国立天文台野辺山電波観測所45mミリ波望遠鏡
(Ebizuka, et.al., Leonid MAC Workshop, NASA Ames, Aug., 2003)
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